株主資本コストや情報の非対称性について

株式市場

先日、ソフトバンクの宮川社長が、自社株式を自身の取引として市場から買付けるというニュースがありました。

ソフトバンク宮川社長、200億円規模の自社株を市場から取得へ(Bloomberg)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-03-31/QQUWB0DWX2PX01

金額の規模もそうですが、自己株式取得のための資金調達方法が、会社から資金を融資してもらう、ということにも非常に驚きました(単純にこういうスキームがあることを自分が知らなかっただけですが)。

今日は、このニュースを見て、投資家視点で考えたことについて備忘的に書いておこうと思います。

資本コストと負債コスト

初めに驚いたことは、前述のとおり金額が巨額な上に、会社から借金をして株式を買付けるということです。

一部上場企業であるソフトバンクの社長ともなれば、その役員報酬(収入)もかなりの金額になるであろうことは想像に難くないですが、それにしても200億円の借金を背負うというのはそれなりの決意が必要なんだろうなと思いました。

少々会計的なことに思考を巡らせてみれば、貸し出す会社側は保有している現金を貸し出すのか、あるいはまた、今回の社長への融資のために金融機関から借入をするのか、なども気になりましたし、貸出金利はどれくらいなのであろうか?ということも考えてみました。

流石に企業側が、自社の社長への貸出しで高い利益をあげようとは考えないと思うので、今回の貸出金利は非常に低いものであるとは思いますが、総額で200億の借入の場合、金利が年率1%でも年間2億円の返済になりますし、0.1%でも2千万円です。一般人からすれば到底支払えない返済額になります。
とはいえ、この程度であれば一部上場企業の役員報酬からは余裕で返せるのかな、とも思ったりもします。

というようなことを考えたすぐ後に、一方で今回宮川社長は、(当然ながら)自社の株式を200億円規模で保有することになります。
単純に直近の配当利回り5.93%で計算してみても、12億円弱が年間の配当として会社から社長個人に支払われることになります。これであれば余裕で返済できそうです。
役員報酬は全額融資の返済に回し、配当収入で生活をする、なんていうことになるのでしょうか(役員報酬と配当所得に対して課税されるか否かという違いはあると思いますが、この辺は詳しく見ていないので無視して考えています)。

一般に、株式会社が株主に支払う「株主資本コスト」は大体5%程度と言われていたかと思います。
これを前提にすれば、株主資本を募って会社を経営する経営者・経営陣は、平均的には株主に年5%のコストを支払うわけですので、今回の自社株式購入を投資家視点で見てみると、現状の低金利環境下では「低金利で資金調達をし、より高いリターンを得られる投資対象に投資する」というまさに「金持ち父さん」おススメの投資行動となっている気がしなくもありません。

情報の非対称性(逆選択)

もう1つの視点としては、今回の宮川社長の自己株式の取得は、ファイナンス理論でいうところの「情報の非対称性」の問題を解決するためのメッセージなのではないか、ということです。

ファイナンス理論では、市場における取引参加者の間に情報の格差がある場合、結果として投資行動に様々な(悪)影響を与えてしまう、としています。

一例を挙げると、ある経営者が株式会社を起業し、事業が順調に拡大されていく中で、上場をしたとします。上場後すぐに当該経営者が上場した会社の株式を売却することは禁じられています(ロックアップ期間)が、この期間を過ぎると、経営者は市場で自己の保有する株式を自由に売却することとなります。

この場合、当然ながら当該会社に関するほぼすべての情報を経営者は知っている一方、通常の市場取引参加者(投資家)は、その経営者と比べると株価に影響を与える良い情報・悪い情報ともに知っている量が少ないということになります。

このような中でロックアップ期間経過後すぐに当該経営者が保有する株式を次第に売却を始めたとしたら、情報の保有量で劣後する一般の投資家はどう考えるでしょうか。恐らく「経営者自身が株式を売却しているくらいなのだから、この会社の将来は明るくないのではないか」と推測し、本来の企業価値をもとにした株価と比して、非常にディスカウントした価格でないと株式を購入しないのではないでしょうか。

ソフトバンクの社長の今回の融資を受けての自己株式取得については、情報の非対称性を自らの投資行動で解消しようという、株式市場・投資家への強いメッセ―ジなのではないでしょうか。

前述のBloombergの記事にも下記のような社長のコメントが書かれています。

私個人として当社株式を保有することで、事業環境がいかに変化しようとも乗り越えていくという決意と、当社事業の成長を望む強い気持ちをステークホルダーの皆さまと共有したい 

Bloombergより

今回の宮川社長の自己株式取得が、今後のソフトバンクという企業の成長、また株価にどのような影響を与えるのか、見守っていきたいと思います。

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